研究内容

新型炉の研究開発

  1. 原子力エネルギーの課題

地球上の人口は益々増加し、2050年には90億人を超えると予測されています。人口の増加に伴い、エネルギー需要も拡大しているため、我々は地球環境への負荷(気候変動や化石資源の枯渇)に対応することが喫緊に迫った課題となっています。発電においても、クリーンで安全、経済的かつ持続可能で、十分な電力供給を考える必要があります。その代表的な発電方法の一つが原子力エネルギーです。しかし、大規模な原子力エネルギー利用をさらに進めるためには依然として以下の課題があります。

  • 核燃料資源の有効利用や放射性廃棄物の管理・処分の観点から、持続可能性を確保すること

  • 高い信頼性をもって原子炉が運転され、経済的競争力を持つこと

  • 最優先である安全性を維持すること

  • 核兵器へのリスクを低減できること

  • 将来的に多様なエネルギー需要に応えられるための新技術開発をすること

  • 原子力研究開発基盤を維持すること

このうち1~4の4項目は「第4世代原子炉(Generation IV)」の主要開発目標であり、5~6の2項目は原子力全般の課題です。

  1. 原子力エネルギーに期待される役割

これらの課題に対応し、我々は将来の原子力システムを開発するために、現在の原子力エネルギーの安全性の向上に取り組み、革新的な次世代原子力システムに向けた研究開発を行っています。

第4世代原子炉には、大きく分けて高速中性子炉と熱中性子炉があります。また原子力の燃料サイクルも、大きく分けてワンススルー(使い捨て)とクローズドサイクル(リサイクル)があります。クローズドサイクル方式では、使用済み燃料からウラン・プルトニウム・超ウラン元素を取り出して再び燃料として利用することで、ウランの濃縮や採掘を減らすことができます。また、プルトニウムを生成しない形でリサイクルを行うことで、核拡散のリスクも低減できます。現状では、ウラン資源が比較的豊富であるため、ワンススルー方式の方が競争力が高いと見なされていますが、今後、資源が乏しくなるとクローズドサイクル方式の方が優勢になる可能性があります。

クローズドサイクル方式にはさらに利点があります。高レベル放射性廃棄物が大幅に減少し、長期的な崩壊熱や放射毒性の低減が期待されます。特に、長寿命の高アクチニド元素を高速炉で核変換することで、負担を最大限に軽減できると言われています。

第4世代原子炉の多くは、高温での運転を可能にする研究開発を目指しています。これにより、温室効果ガスを出すことなく、原子力エネルギーから水素製造や産業用熱供給など、電力以外の用途にも広く応用することができます。

図1. 「第1世代」(初期の原子炉)、「第2世代」(現行の軽水炉等)、「第3世代」(改良型軽水炉、東電柏崎刈羽ABWR等)、「第4世代」原子炉の概念(https://www.jaea.go.jp/02/press2018/p18102201/s02.pdf)

  1. 第4世代原子力システム

1.の1~4の課題(開発目標)を解決する革新的原子炉システムとして、図の6種類の原子炉システムが選定されました。これらの原子炉システムには、熱中性子や高速中性子、冷却材、冷却材温度、燃料サイクル等を組合わせることで開発目標が達成するように研究されています。日本においては、超高温ガス炉・ナトリウム冷却高速炉の原子炉の概念設計とそれに付随した技術開発を担う中核企業として三菱重工株式会社が選定され、これらの研究開発が進められています。我々も、これらの研究開発プロジェクトに対応した研究も行っています。

図2. GIFが選定した6種類の第4世代原子炉システム(Generation IV)https://gif.jaea.go.jp/reactor/systems/index.html

 

ナトリウム冷却高速炉の安全解析(事故現象の研究)

福島第一原子力発電所の事故以降、原子炉で大きな事故(シビアアクシデント)が起きた際に、燃料から放出されるセシウムなどの放射性物質がどのような形で環境中に出ていくのかが重要な研究課題となっています。こうした放射性物質の種類や量、化学的な形態をまとめて「ソースターム」と呼びます。

新型原子炉であるナトリウム冷却高速炉(以下、「高速炉」と呼ぶ)で燃料が破損すると、燃料や核分裂生成物(Fission Product: FP)が冷却材のナトリウムに放出され、化学反応を起こしながら多様な形で存在するようになります。私たちはこのときのFPの振る舞いを明らかにするため、熱力学計算や化学反応解析、ナトリウムを使った実験を行っています。特にセシウム化合物は重要な研究対象であり、事故の進展に応じて金属状態や化合物、エアロゾル(微粒子)としてどのように変化するかを調べています。

さらに、放出されたセシウムエアロゾルが原子炉の中でどのように移動・反応するかを理解するために、原子力機構との共同研究を進めています。例えば、模擬的な粉末エアロゾルを水中(またはナトリウム中)に通し、その粒子がどの程度捕集されるかを測定しています。また、この現象を解析する「AESOPコード」の検証も行っています。

こうした研究を通じて、ナトリウム冷却高速炉での重大事故時に放射性物質がどのように振る舞うかを解明し、原子炉の安全性向上につなげていくことを目指しています。

高速炉の安全設備の研究

高速炉には、冷却材に金属ナトリウムを用いるため、軽水炉にはない特有の安全設備があります。

Naは透明ではないため、冷却材の中を直接観察することができません。そこで、超音波を利用して液体Na中の構造物を検査する技術が開発されています。私たちの研究室では、Na中で使えるセンサーや材料の改良に取り組み、例えば表面処理によってセンサーがNaになじみやすくなることを実験的に明らかにしています。

また、Na中の不純物を除去・測定する装置(「コールドトラップ」や「プラギング計」と呼ぶ)についても研究しています。これらは高速炉の運転を支える重要な設備ですが、従来は経験に頼った設計が多く、十分な予測モデルがありませんでした。私たちはシミュレーションを用いて、これらの装置の設計や運転条件を科学的に最適化する手法を開発しています。

さらに、これまでとは異なる発想による新しい技術にも挑戦しています。例えば、放射光を使ってNa中を観察する手法や、特殊なセラミックスを利用してNaイオンだけを透過させる技術などです。

こうした研究を通じて、北海道大学では高速炉の安全設備をより信頼性の高いものにし、将来の実用化に貢献することを目指しています。

原子力施設に関わる材料特性の研究

原子力施設では、さまざまな材料が使われています。また、過酷事故が発生したときには非常に高温環境で生成する物質が生じます。これらの材料や物質の性質を正しく理解することは、原子力システムの安全設計を大きく向上させる可能性を持っています。私たちの研究室では、こうした物質の物理化学的な性質を明らかにする研究を行っています。

一例として、高速炉の冷却材ナトリウムを純化するコールドトラップには、放射性のトリチウム(T)がNaTの形で蓄積します。廃止措置時には作業員の被ばくを減らすため、このNaTを安全な運転方法を探す必要があります。私たちは、加熱によってNaTをガス状にし、安全に取り扱う方法を研究しています。

また事故時に発生する物質の性質解明も重要です。例えば、ナトリウム漏えい事故ではNaとコンクリートが反応して新しい物質が生じます。私たちはその生成条件や物性値を測定し、事故がどのように収束するのかを調べています。

さらに、福島第一原発事故で生じた「燃料デブリ」の性質を理解する研究も進めています。模擬燃料デブリを使い、冷却過程で発生する空孔(小さな空隙)のメカニズムをシミュレーションや実験で調べています。空孔が多くできると燃料デブリの強度が低下するため、その仕組みを明らかにすることは廃炉や安全対策に有効と考えています。

これらの研究は、原子力施設の安全な運転から福島原子力発電所の廃止措置まで幅広い分野に役立つ研究と考えています。北海道大学では、今後も材料特性の解明を通じて原子力の安全性向上に貢献していきます。

  1. 確率論的リスク評価(PRA)の高度化に関する研究

原子力発電所では、事故の発生頻度や事故時の影響を定量的に評価するために、確率論的リスク評価(PRA: Probabilistic Risk Assessment)が活用されています。本研究では、従来のPRAでは十分に考慮されてこなかった過酷環境下における人間行動や設備運用を対象として、より現実的なリスク評価手法の開発に取り組んでいます。

主な研究内容

  • 格納容器機能喪失後の高線量率環境におけるアクシデントマネジメント操作の成立性評価

  • 高温・高湿度環境下における作業員の負荷と人的過誤確率の評価

  • マルチユニット事故時の複雑な作業環境を考慮したリスク評価

  • 数値解析と人的信頼性評価(HRA)を組み合わせた新たな評価手法の開発

期待される成果

  • 過酷事故時の現実的な事故対応能力の評価

  • 安全対策の有効性をより合理的に評価

  • 次世代原子力システムの安全性向上への貢献

  1. 小型モジュール炉(SMR)システムを対象としたリスク評価研究

小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)は、受動的安全システム、高度な自動化、多数のモジュールを同時に運転する特徴を有しており、従来の大型原子炉とは異なる安全評価が必要となります。本研究では、SMR特有の運転環境を考慮した人的信頼性評価およびリスク評価手法の開発を進めています。

主な研究内容

  • SMR特有の運転員タスク分析モデルの構築

  • 高度自動化システムにおける運転員とシステムの相互作用の評価

  • システム過信(Overtrust)やモード混乱(Mode Confusion)の分析

  • 繰り返し操作や監視作業に起因する人的過誤の評価

  • リスク評価結果の運転手順書およびHMI設計への反映

期待される成果

  • SMR運転時の人的過誤要因の解明

  • 運転員の負担軽減と安全性向上

  • 将来のSMR導入・運用に向けた安全評価基盤の構築

  • 次世代原子力システムの社会受容性向上への貢献

  1. ナトリウム冷却高速炉システムの安全性向上に関する研究

ナトリウム冷却高速炉(SFR: Sodium-cooled Fast Reactor)は、燃料資源の有効利用や高レベル放射性廃棄物の低減が期待される次世代原子炉の一つです。一方で、蒸気発生器内で伝熱管が破損した場合、ナトリウムと水が化学反応を起こし、高温・高流速の反応ジェットが発生します。この反応ジェットは周辺の伝熱管を損傷させる可能性があり、その現象は「ウェステージ現象」と呼ばれています。

本研究では、数値解析技術を活用してナトリウム-水反応のメカニズムを解明し、ナトリウム冷却高速炉の安全性向上に貢献する評価手法の開発に取り組んでいます。特に、粒子法を用いた高精度かつ効率的な解析技術の開発を進めています。

主な研究内容

  • ナトリウム-水反応によるウェステージ現象の発生メカニズムの解明

  • 蒸気発生器内における反応ジェット挙動の数値解析

  • 粒子法を用いたウェステージ現象による破損伝播評価モデルの構築

  • 既存解析コードの高精度化および計算コスト低減

  • 次世代高速炉の安全設計に向けた評価技術の開発

期待される成果

  • ナトリウム-水反応現象の理解向上

  • 蒸気発生器の安全性評価精度の向上

  • 高速炉設計における合理的な安全裕度の確保

  • 将来の高速炉実用化に向けた安全技術基盤の構築

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